インボイス制度~免税事業者・手間請けが主の一人親方の場合
こんにちは!
和歌山市の女性税理士、内西です。
インボイス制度が令和5年10月から導入されることになり、インボイスを発行するための登録、適格請求書発行事業者の登録申請が令和3年10月から始まっています。
この登録申請、原則の登録期限は令和5年3月31日となっています。まだ先なので登録を急ぐことはないと思います。現在消費税の課税事業者で、主な売上の相手先が、法人や個人事業者であるという方はインボイスを発行しなければならなくなるため、もう登録をしておいてもいいのではないでしょうか?
現在免税事業者で、取引先が法人や個人事業者であるという方は、登録をすると消費税の計算の手間と納税の負担が増えますので、取引先の動きを伺ってインボイスの発行が必要なのかどうか慎重に考えられるのがいいかと思います。
免税事業者がインボイスを発行するためには課税事業者にならなければならない
インボイスを発行する適格請求書発行事業者になるためには、消費税の課税事業者であることが大前提です。
例えば、免税事業者である下請事業者が、元方事業者にインボイスの発行を求められた場合には、インボイスを発行するために免税事業者から課税事業者にならなければならなくなります。下請事業者が、消費税を払う余裕がない事業者である場合には適格請求書発行事業者の登録をしないでしょう。そしてインボイスを発行することができません。
元方事業者は、インボイスを発行出来る下請事業者を別に探すことが考えられます。(元請からの消費税分カットは独占禁止法、下請法上問題となる行為になります。)
「免税事業者が、インボイス制度導入で淘汰される」
といわれているのはこのためです。
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元方事業者はなぜインボイスが必要なのか?
そもそも、どうして元方事業者はインボイスが必要なのでしょうか?
それよりインボイスってなんなの?
インボイスとは別名「適格請求書」といいます。
今のスーパーのレジなどでもらうレシートは、「区分記載請求書」といいます。
このレシートに、適格請求書発行事業者として登録した事業者に付与されるローマ字のTから始まる「登録番号」等を記載したものがインボイスと呼ばれるものです。
(具体的には当事務所ブログインボイス制度の適格請求書って?現行の区分記載請求書との違い(卸売業の場合)参照)
インボイスは簡単に言うと登録番号の記載のあるレシートです。
これをもらうことがそんなに価値があるのか?
そう、一定規模以上の事業者さんにとっては、インボイスはとても価値のあるものなのです。
一定規模以上というのは、消費税を納めている事業者さんで、消費税の計算を本則課税で計算している事業者さんのことをいいます。
消費税を本則課税で計算している事業者にとってインボイスは価値がある
なるほど、消費税の課税事業者なら、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者なのである程度の規模の事業者です。
じゃあ本則課税ってなに?
本則課税とは、消費税の納税額の計算方法で、売上にかかる消費税から仕入にかかる消費税を控除して計算する方法です。
例
材料3300円(消費税300円)仕入れた
この材料に加工を施して商品を製造
商品11,000円(消費税1,000円)売った
納めるべき消費税は
1,000円ー300円=700円
このように売上にかかる消費税から仕入にかかる消費税を控除して納税額を計算します。
これが本則課税です。
そしてインボイス制度というのは、この材料仕入に係る消費税300円を控除するためには、材料代3,300円の請求書として、インボイスを保存していなければ、控除してあげないよ。というものなのです。
もしも、材料を仕入れた先の事業者が、免税事業者で、インボイスを発行出来ない事業者だとしたら、この商品を売り上げた事業者は売り上げに係る消費税をそのまま1,000円納付しなくてはいけなくなります。
これは大変なことです!消費税を払って仕入れているのに控除されないなんて!
消費税を納めている事業者さん達は、血眼になって、インボイスを手に入れなければいけなくなるのか!!
・・・と、そう感じるでしょうが、そうでもないのです。
ややこしい話ですが、消費税の納税額の計算方法に「簡易課税方式」という計算方法もあり、この計算方法で、納税額を計算されている事業者さん達にとってはインボイスをもらおうがもらわなかろうが、納税額は変わりません。レシートがあればインボイスでなくてもいいのです。
消費税を簡易課税で計算している事業者にとってはインボイスは必要ない
・・・どういうこと?
先ほどの例で簡易課税で消費税の納税額を計算します。
材料3,300円(消費税300円)仕入れた
この材料に加工を施し商品を製造
商品11,000円(消費税1,000円)売った
製造業なので、事業区分は第3種です。3種であれば、売上の7割は仕入に使っているだろうと考えてくれます。
算式
売り上げに係る消費税ー売り上げに係る消費税×70%=納付する消費税額
この算式に上記の例を当てはめてみると
1,000円-1000円×70%(700円)=300円
300円が納付する消費税になります。
・・・本則課税より400円少ない!
そうです。本則と多くの場合納税額が変わってきます。業種により本則のほうが有利な場合もあったりします。多くの場合は簡易課税が有利になりますが、一概には言えません。
上記の計算方法だと仕入の3,300円はどこにも現れません。関係ないのです。
売上から直接計算しますから。
そして、この計算方法が使える事業者は、基準期間の課税売上高が、5,000万円以下の事業者に限られます。(他にも簡易課税が使えない要件はありますが、ここでは割愛させて頂きます。)
基準期間の課税売上高が5,000万円を超える事業者が、インボイスがあるかないかで仕入にかかる消費税を控除できるかできないかが決まります。
業種により簡易課税の方が不利になる事業者であれば売上高にかかわらず本則を使っているでしょうが・・・
元方事業者であれば、多くの場合基準期間の課税売上高5,000万円は超えているであろうという予測のもと、インボイスが必要であろうということです。
手間請けが主の一人親方の場合
インボイス制度が始まれば、元方事業者から発行を求められるかも・・・
でも、消費税は免税のままがいいし・・どうしよう。
インボイス制度が始まると免税事業者は売上先に対し、消費税分を値引きすることで取引を続けてもらうか、インボイスを発行するため適格請求書発行事業者として登録をするかになるでしょう。
消費税が全く請求できなくなるならば、適格請求書発行事業者として登録して、消費税の課税事業者になって納税する方がお金を残せるかもしれません。
適格請求書発行事業者になり簡易課税を使う
一人親方の職人さんなどで、手間請けが主の事業主さんであれば、適格請求書発行事業者として登録し、消費税の簡易課税制度を使えば、以下のようになります。
例
元請けより工事の応援依頼 1日15,000円(外消費税等1,500円)で10日
・簡易課税制度適用
・加工賃その他これに類する料金を対価とする役務提供を行う事業につき第4種事業に該当
第4種事業に該当(売上にかかる消費税の6割は仕入に使っているだろうと見なして40%の消費税を納付)
⇒売上にかかる消費税等の40%が納める消費税
1,500円×10日=15,000円 (売上にかかる消費税等)
15,000円×40%=6,000円 (納める消費税等)
手元に残る消費税は
15,000円-6,000円=9,000円
になります。
消費税を請求しなかった場合より9,000円の消費税が手元に残ることになります。
今まで通り免税事業者でも同じ金額が請求できるなら15,000円手元に残りますが。免税事業者でインボイスを発行しない事業者に仕事を回してくれるだろうかという心配があります・・・
上記のように、適格請求書発行事業者になり、簡易課税制度を使うことで、消費税分値引きをするのを避けることができます。
簡易課税制度が有利かどうかは専門家に相談を!
登録をしてインボイスを発行し消費税を納める場合、簡易課税制度を使うかどうかは業種によって違いがあります。仕入の多い業種や多額の設備投資を行う年においては、簡易課税制度を使うことで損をすることもあります。
インボイス制度の始まりまでまだ時間があります。最寄りの税理士、税務署等に相談し登録の際には簡易課税制度を使うのが有利なのかどうかなど(適用を受けるためには届出がいります)余裕を持って行いましょう!!
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